わが青春の追憶
呉海兵団

酒保ひらけ

夕別科が終わり休憩になると、「酒保ひらけ」の号令が拡声器から流れる。酒保というからには一杯飲むことを連想していたところ、飲めるのは善行章をつけている神様たちだけ、我々新兵は酒ぬきの『保』だけである。

新兵たちが酒保で買うというよりも配給されるものは、洗面用具、筆記用具、洗濯石鹸や褌など、最小限の必需品だけである。

酒保で品物を買うには、教班ごとに注文をまとめて当番が酒保帳に記入し、酒保の窓口に並んで受け取ってくる。ときには一人一個の菓子が配給されることもある。それは小さな羊羮であったり、豆菓子や煎餅のときもあり、甘いものに欠けている新兵にとってはこのうえもない楽しみで、大切な宝物として少しずつ味わいながら食べるのであった。

酒保の代金は毎月の給料から差し引かれるのであるが、酒保代金が一か月四円を超えると『酒保止め』にされてしまう。そのため日用品もむやみに買うわけにはいかないのだ。

 

当時の主な酒保物品の価格を思い出してみよう。

郵便ハガキ 一銭五厘、鉛筆 二銭、歯磨粉 二銭、タオル 七銭、化粧石鹸 五銭、洗濯石鹸大 十銭、木綿糸 五銭、などである。

新兵では買えなかったが、酒一升 一円八十銭、 ラムネ一本 二銭、 たばこ(ほまれ)四銭、たばこ(さくら)十銭であった。

それで当時の給料は、記憶によると、

四等水兵  六円二十銭

三等水兵  十八円五十銭

二等水兵  二十二~三円

一等水兵は、勤務年数によって異なり、二十五円から三十円位であった。

艦船の乗組員になると、給料の他に航海加俸が月に二~三円付く、戦地へ行けば危険加俸として四~五円加えられるのである。その他、普通善行章一本について一日二銭、特別善行章一本が一日十銭、さらに砲術科の兵員には、艦砲射撃優等章が一日二銭、同優等徽章(優等章連続三回受賞者)に一日十銭が加算されるのである。

このように、海軍では給料以外にいろいろと状況によって付随した待遇はあったが、海兵団にいる新兵にとってはまったく関係なく、六円二十銭の給料のうち、何円か強制的に貯金をさせられていた。せめて酒保物品くらいは気楽に買いたいものだが、月に四円を超えると酒保止めになってしまうので、石鹸やハミガキ粉なども自然と節約するようになる。

 

海兵団での新兵は、現金を所持することは許されない。私は故郷を出るとき二十円持ってきたが、入団したとき貯金させられたので一銭も持っていない。新兵にはお金の必要はないとのこと。「衣類は官品、食事は支給、寝るのは吊床、だから貴様たちは軍隊に志願したのだろう」と言われる始末である。

それでは軍隊にいるうちに金を貯めようと思えばいくらでも貯金できるかというと、実情はそうはさせてくれない。その訳は後で話そう。

とにかく海兵団にいる新兵には、外出はできず酒保も制限されて、お金の有難味など感じられない社会であった。